「ウェアラブル・テクノロジー」の現状レポート

 動画の撮れる携帯電話やワイヤレス・インターネット・ルーターなんてもう古い。未来の最も革新的なハイテク機器は、ストラップレスで「サイズ4」の表示がついているはずだ。

 「サイズ4」にもいろいろあるが、ここで言っているのは服のサイズのことだ。すてきなドレスにリモコン、GPS装置、RFIDタグが装備され、ファッションショーのキャットウォークでは、お高いデザイナーズ・ブランドのお披露目というよりは、映画『ミッション:インポッシブル』の一場面のような光景が繰り広げられる日もやってくるだろう。なぜなら、ファッションとテクノロジーは急速に融合しつつあり、将来のオートクチュール・ブランドは、おそらく『ココ・シャネル』よりも米シスコシステムズ社の影響を大きく受ける可能性もあるからだ。

 服飾デザイン業界では、何年も前から革新的な新素材が実験的に用いられている。また、かつては画期的だった合成繊維、たとえばポリエステル、ポリウレタン、防水素材『ゴアテックス』、スエード調人工皮革『ウルトラスエード』[日本での商標『エクセーヌ』]などは、現在ではさまざまな衣料品や靴に使われている。最近では、ロサンゼルスに拠点を置くおしゃれなデザイナーズ・ジーンズのブランド『セルフォンティーヌ・ジーンズ』が、米デュポン社の『ライクラT400』を採用した。これは複数の素材を混紡した繊維で、ストレッチ・ジーンズに使用するといつまでも伸縮性が損なわれなず、ベルトなしでもまず大丈夫だ。

 だが、ここで取り上げたいのは、最先端の素材を使用し、形崩れしにくい、汚れがつきにくいといった長所を謳う「スマート・クロージング」と呼ばれる衣料品ばかりではない。新技術をデザインに融合させた「ウェアラブル・テクノロジー」についてもご紹介しよう。多くの企業がすでに、限定的ではあるが、ファッションとテクノロジーをミックスさせている。たとえば、スノーボード用具メーカーの米バートン・スノーボード社(本社バーモント州バーリントン)の『アナログ・クローンMD』ジャケットは、ソニーのMDウォークマンをジャケットに組み込み、袖にリモコンを縫い込んだもの。また、ファッションに敏感な人たちが夏の間もクールでいられるよう、日本の株式会社空調服は扇風機を組み込んだジャンパーを作っている。

 だが、本当にハイテクな未来のデザインは、まだ市販されていない。これらの多くは、テクノロジーの進歩で誕生した新素材を用いる予定で、今はまだ世界各地のアトリエや実験室で構想が練られている段階だ。

 米NPDグループ社(本社ニューヨーク州ポートワシントン)の主席産業アナリスト、マーシャル・コーエン氏によると、ウェアラブル・テクノロジーの売上は今もって米国ファッション業界の小売販売高の1%にも満たないという。この分野はまだ誕生したばかりだが、ファッション業界全体は堅調な拡大を続けている。昨年の米国内の衣料品の売上は合計1810億ドルに達し、2004年と比べて4%近く成長した。

 それでもコーエン氏は、ウェアラブル・テクノロジーも、やがてはブルージーンズのように誰でも持つ商品になると語る。「未来のカーキパンツには内側に加熱用のコイルが組み込まれ、脚を暖かに保てるとすれば、誰が普通のカーキパンツを買うだろうか? 繊維や衣料製品にテクノロジーが投入される未来は、ほんの数年後に迫っている」と同氏は言う。

 いつものことながら、ウェアラブル・テクノロジーやスマート・クロージングに最初に飛びつくのはスキーヤーや学生といった人たちになるだろうが、後には一般にも受け入れられるだろう。NPD社ではスキーウェアやスポーツウェアのメーカー、たとえば米ナイキ社、米コロンビア・スポーツウェア社、独アディダス−サロモン社、米ティンバーランド社などが主な牽引役になると見ている。2005年にアディダス社が発売したランニングシューズ『adidas_1』(アディダス・ワン)はマイクロチップ内蔵で、足元の路面のコンディションを監視し、それに応じてかかとの衝撃吸収力を調整するというものだ。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの学生たちは、テクノロジーに関心の高い若年男性層では、ウェアラブル・テクノロジーの流行を取り入れる割合が女性よりも高いだろうと考えている。女性はテクノロジーの採用によって美観が損なわれることのない「計算し尽くされた衣服」ならば歓迎するだろうというのが学生たちの見方だ。

 テクノロジーの影響を受けつつあるのは衣服そのものだけではない――ロンドンでは、デザイナーたちが衣服を体にフィットさせる新しい方法を開発中だ。ロンドンに拠点を置く英ボディメトリクス社は、セルフォンティーヌ・ジーンズと共同で、世界で初めて完璧にフィットするジーンズを誕生させた。ボディメトリクス社の開発した「ポッド」は、顧客の体型を光学スキャナーで読み取り、正確なサイズを記録する。

 顧客が下着姿で真っ暗なポッドの中に立つと、8秒間にわたって体に光が照射される。ここで計測したサイズは記録され、2週間ほどで「完璧にフィット」するジーンズが顧客に配達される。価格は1着530ドルと、セルフォンティーヌの通常のジーンズの2倍以上だ。

 だが、革新的な衣服がどれもこれほど高価になるとは限らない。MITメディアラボの学生たちは、比較的安価なウェアラブル・テクノロジーの実現にも取り組んでいる。たとえば、オーガンザなどの生地に銅や炭素、ステンレスなどのさまざまな金属素材をしみこませ、伝導性を備えつつも肌触りの柔らかい素材を開発する試みがある。また、MITの学生、アマンダ・パークスさんは「ニチノール」(Nickel Titanium Naval Ordnance Laboratory[海軍兵器研究所のニッケルチタン]の頭文字をとった名称。ほぼ同量のニッケルとチタンからなる形状記憶合金の一種)が温度の変化によってどのように形状を変えるか研究している。ニチノールを素材に使えば、わずかな熱を加えるだけで、たちどころに長袖が半袖に変わり、しかもいつでも元の形に戻せるシャツも可能かもしれない。

 もっと奇抜なアイディアもある。ロンドンのセントラル・セント・マーティンズ美術大学の上級研究員で、『未来の服飾』(Fashioning the Future)という著作もあるスーザン・リー氏は、「スプレー・オン・ドレス」なるものを提唱している。特殊配合の化学薬品を使い、ほぼ何もないところからその場限りのドレスを作り出せるというものだ。この化学成分を肌の上に直接スプレーすると不織布の層ができ、これを好きな形に変えられる。また、MITメディアラボでも、学生たちが「エピ・スキン」なるものを作り上げた。これは、実験室の試験管の中で培養した上皮細胞を使って作ったアクセサリーだ。

 現在研究が進んでいるアイディアの中でも、空調ジャケットや縮みにくいセーターなどは、遠からず市場に登場するだろう。だがほかの例、たとえば喋るTシャツやグラスファイバー製のエアプレーンドレスなどは、話を聞くだけならよさそうに見えても、実用性のある用途が見いだせず、実際に日の目を見ることはないだろう。

 ところで、履いている人がまったく動かなくても、十分な運動をしただけの効果を得られるスニーカーがあったなら、心惹かれると思うのだが。

| 日記

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