「女性向けバイアグラ」の登場はいつ?

 性機能研究の世界では、男性はしばしば電灯のスイッチにたとえられる。つまり、男性の性的スイッチをオンにするのは、それほど大変ではないということだ。これに対し、女性には飛行機の制御盤のように多くの計器や文字盤があり、すべてのタイミングを合わせなければ「離陸」できないと考えられている。

 このようなたとえはあまりに短絡的に感じられるし、男性にとっては侮辱的でさえある。しかし、女性の性衝動の複雑さが、ある疑問の答えになると話す研究者もいるそれは、万能の性機能障害治療薬である『バイアグラ』に相当する女性向けの治療薬がなぜ存在しないかという疑問だ。「女性の場合はもっと複雑だ。血流を増加させるバイアグラを投与するだけではなく、仕組み全体のバランスを取れないかと、われわれは話し合っている」と、女性の性機能障害の専門家で、カリフォルニア大学サンディエゴ校のローリー・フッターマン助教授(精神医学)は述べる。

 米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社が、女性向けとしてははじめて、性機能障害治療用の処方薬の販売許可を求める申請を行なっていたが、今月初めに米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会がこの申請を却下する勧告を答申(日本語版記事)して以来、女性の性衝動が話題になっている。他の企業も、巨大な市場が見込めることを察知しており、同様の薬の開発に取り組んでいる。

 全体でみると、女性の4割が性機能障害に悩んでいると推定されている。その大部分(85%)は、第1にセックスをしたいという衝動が沸かないという問題を抱えている。さらに約10%が性的に興奮できず、推定で5%がオーガズムに達することができないとフッターマン助教授は述べる。

 研究者やセックス・カウンセラーなどによると、女性の性衝動は腰から下ではなく、首から上で起こるため、治療は難しいという。ラトガーズ大学のビバリー・ウィップル名誉教授は「女性にはある種の感情や気遣いを示してあげることが必要だ。身体の特定の部分を刺激すればオーガズムに達するというものではない」と話している。同名誉教授は、『Gスポット』に名前を付け、世に広めた神経生理学者だ。

 しかしながら、以前は男性の性機能に関する問題も精神的なものだと考えられていた。性的不能の症例のほぼすべての原因は、男性性器にまつわる問題ではなく、心理的な要因とされていたのだ。ところが、バイアグラやそれを模倣した薬が登場すると、膨大な数の男性が、精神科に通わなくても突然再び勃起を経験できるようになった。

 バイアグラは、一部の女性患者とくに、性反応を鈍らせる抗鬱(うつ)剤を服用している患者に対しては確かに効果があるようだ。とはいえ、男性の場合のように既存の治療法を覆すような効果があるとは、研究者も考えていない。バイアグラはペニスに流れ込む血流を増やすことによって勃起を促す。血液循環の問題は女性の症状にも影響を及ぼしてはいるが、その度合いはかなり低く、おそらく問題を抱える女性の20人に1人に過ぎないだろうと、北カリフォルニアで婦人科系のガンを専門にする外科医、ケイト・オハンラン博士は説明する。

 「女性は男性のようには動脈硬化にならないし、オーガズムに達しない理由も男性とは違う。だからこそ男性向けにしか治療薬が存在しないのだ」とオハンラン博士は述べる。

 性衝動が低い男性がテストステロン(男性ホルモン)を服用すると、症状が改善することが多いが、このホルモンは女性にも効果があるようだ。テストステロンは女性の体内でも作られており、この量が減少すると、無気力や性衝動の低下を招くとされている。「セックスとリビドー[性的衝動]に注目すると、(テストステロン)は女性のリビドーを高めるだけでなく、オーガズムや性的な空想も強化する。これらすべてが非常にうまい具合に回復するようだ」と話すのは、サンディエゴにあるスクリプス記念病院ラホーヤ分院の生殖内分泌学者テッド・キグリー博士だ。

 それなら、性機能障害に悩むすべての女性にテストステロンを余分に投与すれば済む話ではないのだろうか? しかし第1に、この治療を性機能障害向けに行なうことは米連邦政府が認めていない。FDAの諮問委員会は安全性への懸念を理由に、P&G社のテストステロン・パッチの使用申請を却下する勧告を出したばかりだ。このパッチは卵巣を摘出した女性への投与を目的としたものだった。性問題に悩む女性に医師が法に触れない形でテストステロンを処方することは現在でも可能で、キグリー博士は24年以上この処方を行なってきた。しかし認可されていない目的での処方に対する支払いを保険会社が渋る可能性はある。

 それに、ホルモンは期待されているほどの万能薬ではない可能性もある。オハンラン博士によると、ホルモンは一部の女性には効果があるが、女性のほとんどの性問題の原因は心理的なもので、「子どものときに受けたしつけ、ティーンエージャーのときに性行動について受けた教育、マスコミから得る情報、性的なものに始めて触れたころの違和感の度合い、セックスの楽しみ方、パートナーを向上させられるかどうか」などに元をたどることができるという。

 では女性の性問題は、ホルモンや性器にあるのではなく、主に頭の中にあると考えてもよいのだろうか? 研究者たちは、性的興奮の生理に関する新しい研究(日本語版記事)が、この問題に答えを出す手がかりになるのではと期待をかけている。「すべての研究者が、女性は男性の小型版だと考えてきた。男性に効果があるものは女性にも効果があるはずだ、というわけだ。しかし女性は生化学レベルで男性とは異なり、性機能の点でも異なる」とラトガーズ大学のウィップル名誉教授は述べる。

 ウィップル名誉教授たちは、被験者を機能的磁気共鳴映像法(fMRI)装置で計測し、性的に興奮したときの脳の反応を研究している。

 10月に『ブレイン・リサーチ』誌に発表された研究の中で、ウィップル名誉教授は、複数の女性が下半身が麻痺した後も自分で性器を刺激することでオーガズムに達した事例を報告した。同名誉教授は、これはおそらく、感覚が脊髄ではなく迷走神経を通って伝わったためだとしている。「彼女たちに知覚はない。しかし、脊髄損傷を受けていない女性と同じ脳の部分で確かにオーガズムの反応がある」

 この研究成果は麻痺のない女性にも応用可能なのだろうか? ウィップル名誉教授によると、この発見は、研究者がより広い視野から問題を見るのに役立つだろうとのことだ。「われわれは標準的な女性の性機能がどういうものかを、まず理解しなければならない。女性に何が起こるのか、女性にとって何が重要なのかといったことだ。女性についてさらに多くの研究を行なう必要がある。そしてもし肉体的な問題があれば、何ができるか考えてみることだ」とウィップル名誉教授は述べている。

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