手軽でクリーンな燃料電池システム――ガソリンから水素を生成する触媒開発

 クリーンなエネルギーによる未来社会の構築を目指す人々の間で、私たちに馴染みの燃料、すなわちガソリンから水素を生成する技術を推進する動きがある。

 カナダのバンクーバーに本社を置くパワーノバ・テクノロジーズ社は、化学反応の過程で温室効果ガスを排出せずにガソリンから水素を取り出す触媒を開発した。同社が研究所を置くロシアとカナダは、主要な石油生産国でもある。この触媒を使えば、カートリッジ1つで燃料電池車を最大で500キロメートル走行させるだけの水素を作りだせるという。水素が切れたら、触媒を内蔵したカートリッジを車から取り外し、ふたたび燃料を充填する(カートリッジ方式以外にもやり方は考えられる)。

 パワーノバ社では、このサービスを提供できる設備をもつガソリンスタンドが数年以内に登場し、水素燃料電池車のドライバーは燃料を充填したカートリッジを購入できるようになると見込んでいる(触媒と、40リットル弱のガソリンが入るカートリッジが考えられている)。

 パワーノバ社のロバート・オラルベコフ社長兼共同会長(写真)によると、カートリッジは最大で20年間もつように作られているので、ガソリンスタンドではカートリッジの中身を何度も補充して販売できるという。

 パワーノバ社は、イリジウムと鉄を用いたこの触媒を、5年以内に売り出す計画を立てている。このシステムを使えば、地球に優しい方法で水素エコノミー[水素燃料が普及した社会]へのスムーズな移行が果たせると、同社ではうたっている。

 「われわれは、インフラと環境、両面の課題を100%解決することになる」とオラルベコフ社長は述べた。

 同社は今後もモスクワの研究所と、カナダの電力会社、BCハイドロ社の研究所で開発を進める。しかし、ガソリンを水素に転換するシステムの開発を進めている企業や研究所はほかにもある。

 通常の内燃エンジンから水素燃料電池への移行には数十年かかると言われているが、パワーノバ社の触媒が、効率や実用性の面で、移行期間を担えるほどのものなのかと疑問視する科学者もいる。

 そう疑問を投げかける科学者たちも、米エネルギー省や有名大学でそれぞれに化石燃料を水素に変えるシステムの開発を進めている。そのやり方は、システムをガソリンスタンドに設置する方式か、燃料電池車自体に搭載する方式かのいずれかだ。

 カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー州知事は、新たな水素燃料スタンド網の構築を提案している(日本語版記事)が、化石燃料から水素燃料を生成するシステムは、現在のガソリンスタンドや車両に装備するほうがはるかに実際的だというのが、こうした科学者たちの意見だ。

 パワーノバ社は、同社の技術なら今後も石油会社は存続できるし、ガソリンスタンドの従業員も失業せずにすむと主張している。

 「米エクソンモービル社や米シェブロンテキサコ社などの石油大手も、これなら歓迎するだろう」とオラルベコフ社長。

 パワーノバ社では、燃料電池車への水素供給システムとしては、ガソリンを高温に熱して水素を生成する方法(いわゆる水蒸気改質法)よりも同社の方式のほうがよりクリーンだとして、他社との差別化をはかっている。化石燃料を原料に水素を生成する水蒸気改質法は、一酸化炭素や二酸化炭素を大気中に放出するからだ。

 これに対して、パワーノバ社の触媒方式では、カートリッジ内の水素生成プロセスにおいて、温室効果ガスや大気汚染物質が排出されることはないと、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授で、同社の役員を務めるウィリアム・C・カスカ氏(写真)は説明する。

 しかも、パワーノバ社のカートリッジは、他の方式に比べて安全性が高いと言えるかもしれない。

 カートリッジに充填される際には、水素は液体の燃料の組成に含まれている形なので、水素ガスを高圧タンク(写真)に貯蔵するよりもずっと安全だと、オラルベコフ社長は話す。

 また、カスカ氏とオラルベコフ社長によれば、パワーノバ社の触媒を使えば、燃料電池内で電力を生み出すために水素を発生させる際にも、水蒸気改質法ほど高温で熱する必要がないという。

 水蒸気改質法で化石燃料から水素を生成するには摂氏900度にまで熱する必要があるが、パワーノバ社の触媒なら摂氏200度以下で十分機能するという。

 水素は高温で熱すると危険な場合がある。水素は拡散しやすいものの、非常に爆発しやすいからだ。

 しかし、高圧水素ガスのタンクや水蒸気改質法より安全だとしても、高温で熱さずに、ガソリンから触媒でどの程度の水素を生成できるのかと疑問を投げかける科学者もいる。

 この科学者はエネルギー省オークリッジ国立研究所所属のティム・アームストロング氏で、「炭化水素が(カートリッジの)中に残っていれば、燃料からすべての水素を取り出したことにはならない」と指摘する。

 そのほか、貴金属であるイリジウムを含んだ触媒の効果を持続させるために、カートリッジにはイオウなどの不純物を完全に除去したガソリンを使わなくてはならないという問題点もある。

 「非常に純度の高いガソリンを使う必要がある」と、パワーノバ社のカスカ氏も認めている。


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